活動の目的

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2013年活動



活動の目的

 「沿岸被災地における絶滅危惧植物ミズアオイの復活」と、それを含んだ「ビオトープ再生にともなう環境教育、子どもたちの心の復興」がコアコンセプトである。短期的な目標は海岸湿地ビオトープの設営だが、中?長期的にはビオトープの維持・管理と、それを拠点とした環境教育の持続、および被災した子どもたちの心のケアが目標である。

 2011年3月11日の東日本大震災では自然界の生物も大きな打撃を受けた。釜石市片岸町の鵜住居川河口付近は、環境省の日本の重要湿地500「陸中リアス海岸の湾奥沿岸湿地群」の構成要素である。長い砂州や三陸で最も淡水の影響の強い汽水域(干潟・海岸湿地)が特徴であり、広い範囲が野生生物の豊富な地域として残されていた。その中には、絶滅危惧植物のミズアオイ(岩手県: Bランク、環境省: 絶滅危惧II類)の群落があり、震災以前から地元市民(加藤直子: あさがおネットワーク代表)による地道な保全活動が続けられていた(参照: AEAホームページ http://aea.main.jp/project4 )。しかし、この貴重な群落が津波による砂の堆積と地震による地盤沈下のために失われた。現在、この地では復興計画による巨大防潮堤の増設、土地の嵩上げ・埋め立て、その後の工場進出などが予定されている。それが実現すると、もともとあった干潟や湿地ばかりでなく、仮堤防の内側に現れた新しい湿地もすべて消滅し、ミズアオイ群落の再生はさらに難しくなる。NPO団体AEAとあさがおネットワークは、絶滅危惧植物を保護するために時機を逸してはならないと考え、市と地権者の許可を得た上で2012年の3月、種子が含まれていると考えられる現場の土壌をバックホーで採取した。これを釜石市内の複数箇所に移したところ、幸い6月に発芽が見られ、その後成長、開花・結実に至った(http://aea.main.jp/project4-1)。

「沿岸被災地における絶滅危惧植物ミズアオイの復活」のために、二つの方向を計画した。一つは行政や地権者と交渉を重ねながら、もともと群落のあった片岸町、鵜住居川河口付近においてビオトープを再生することである(ビオトープA)。 もう一つは、それ以外の場所を選定してビオトープを創設することである(ビオトープB、2012年9月に設置済み)。ビオトープ造成にあたっては大学(岩手県立大学)、NPO(AEA)、市民団体(あさがおネットワーク)に加え、地元建設会社や地権者、地域住民、子どもたちと連携し、人々の力を借りながら、地域力を活かした形での造成を目指している。

また、他の被災地では、ミズアオイが従来見られなかった場所(住宅地など)から突如出現した例がいくつかある。これは津波の攪乱と浸水により、過去に地中深く埋まっていた種子(埋土種子)が洗い出され、新しく湿地環境を得て成長したものと考えられる。震災により、絶滅危惧植物が復活したことになる。しかし、これは一時的な出現であり、災害復旧事業により消滅する可能性が高い。釜石のミズアオイの保全については、三陸沿岸のミズアオイ集団とのつながりを維持しながら進める必要がある。それらは、釜石のビオトープに再生した集団が縮小したときの補充源にもなる。と同時に、あまりにも時代が異なり、遺伝的にも異なる集団との交配は、釜石集団の持つ本来の遺伝的組成を乱す恐れがある。つまり、埋土種子からの復活個体は、ミズアオイの保全にとって益にも害にもなりうる。そこで、これらの個体から種子を採取して、休眠覚醒・発芽について調べ、開花・結実までの育成を試みる。とくに、遺伝的組成については詳細に解析し、集団の再生におけるバックアップとして活用するとともに、遺伝学的な混乱と汚染を起こさないように充分配慮したいと考えている。これは、後述の子どもたちへの環境教育の素材としても大きな意味がある。

「ビオトープ再生にともなう環境教育、子どもたちの心の復興」は、ビオトープB近くに仮設校舎がある鵜住居小学校と釜石東中学校の生徒に、ビオトープの設営やミズアオイの再生作業に参加してもらうことから始める。すでに2012年9月のビオトープBへの移植作業には釜石東中学校の生徒が参加している(前述ホームページ)。その後のビオトープの維持と管理、植物・動物・昆虫の観察など、環境学習への参加を促しながら、釜石の自然と環境への理解を深めてもらう。海は恐ろしいだけではなく、さまざまの自然の恵み(生態系サービス)をもたらすことを、今こそ若い世代に知ってほしい。子どもたちが活動や環境学習に参加することにより、他の参加者との交流や活動への達成感を得て、被災し傷ついた心が少しでも癒され、未来に希望を持ってくれることを望んでいる。 

 計画全体としては、被災地の復興において優先されていると言い難い「生物空間の再生」のパイロットプランとなることを目指している。被災地では防潮堤の素案だけは立てられたが、内側の土地利用計画については嵩上げをするのか、宅地化して町に戻すのか、産業用地にするのかなど、さまざまの思惑と利害が対立し、未だ定まらない。そのような中でビオトープについて提案するのは決断力を必要とする行動である。しかし、自然再生によってこそ地域の復興も可能になると私たちは考えている。三陸の主要産業は漁業であり、水産資源を支えているのは陸と海が接する沿岸域の湿地、干潟、藻場、アマモ場である。岩手県の人口は2000年から2050年の50年間で半減する。減少速度は三陸においてもっと速く、今回の震災でさらに速まった。このままでは巨大堤防が完成しても、内側にはほとんど誰も住まない、帰化植物だらけの単調な地域ができあがってしまう。将来を支える若い人たちが帰属意識を抱き、彼らが帰って来たいと思えるような未来の三陸をつくるには生態系のもつ力がどうしても必要である。地域の自然や生物多様性の復元力を借りれば、生物資源は再生し、地域産業と社会の回復も早まる。そのために必要な、自然への感性と理解をもった人材をビオトープ活動によって育てたい。本活動は、地域の子どもたちが身近に生物たちに出会える環境を再生し、沿岸被災地における生態系復活のモデルケースとなることを最終成果と考えている。